
要件定義の業務フロー作成って、AIツールを使えば楽になりませんか?最近ChatGPTとか色々なAIが注目されてますし。



そうですね。確かにAIツールは便利かもしれませんが、要件定義の業務フローは顧客の業務を正確に理解して表現する必要があるんです。AIを使う前に、まずはその特徴と限界をしっかり理解しておく必要があります。
はじめに
要件定義において業務フローの作成は欠かせない作業の一つです。しかし、その作成には多くの時間と労力がかかり、特に複雑なビジネスプロセスを扱う場合は大きな課題となっています。
近年、ChatGPTやBardなどの生成AIの発展により、様々な業務効率化が進んでいます。業務フローの作成においても、AIツールを活用する動きが出てきています。しかし、本当にAIは信頼できる業務フローを作成できるのでしょうか?
この記事では、実際にAIツールを使って業務フローを作成し、その実力と限界について検証していきます。特に要件定義での活用可能性に焦点を当て、現場のSEやプロジェクトマネージャーの方々に役立つ情報をお届けします。
使用するサンプルケース
以前の記事で使用したフローを使いました。
- 社員が有給休暇申請を提出(必要書類に記入し直属の上司に手渡し)
- 直属の上司が人事管理システムにて当該社員の有給休暇残日数を確認し、有給休暇残日数が足りない場合却下。当該社員に申請書を返却して終了。足りている場合は「承認」もしくは「却下」する
- 直属の上司が却下した場合、申請差戻しとして社員本人に申請書を返却し終了
- 直属の上司が承認した場合、部門長に申請書を渡して承認申請を依頼する
- 部門長が「承認」もしくは「却下」する。「承認」の場合は人事へ報告され申請書を渡す
- 部門長が却下した場合は申請差戻しとして直属の上司に申請書を返却し終了
- 部門長が承認した場合、人事部が申請書の内容を人事管理システムに登録。
- 当該社員に申請が承認されたことを記載したメールが送信される。


業務フローを生成させたAIサービス
本記事ではChatGPTを使用していません。
ChatGPTについては解説記事が多く書かれていることと、拡張機能を使用しないと図として出力することができないためです。
筆者が作成した業務フロー
サンプルケースを使用し筆者が作成したフローがこちらです。本記事ではこの業務フローとどう違うのかを検証します。


作成方法
miro
1)「Create with AI」を押下


2)「Dialog」「Flowchart」を選択し、上記サンプルケースを入力のうえ「Generate diagram」を押下


Lucidchart
1)サイドメニューもしくは「AIで作成」を押下


2)「フローチャートを選択しプロンプトを入力、図形ライブラリを「なし」に設定して「生成」ボタンを押下。
タイプで「自動選択」を選択した場合、図形ライブラリは「UML」を選んでください。


生成されたフローと評価
miro


- 作成できるダイアグラムは「フローチャート」「マインドマップ」「ER図」「シーケンス図」「クラス図」のみ
- できあがったものはフローチャートとしてはそこそこ使えるが少々論理の破綻がある。本来、部門長が却下したときは社員に申請書を返却して終了となるがこのフローでは申請書という文言が出てこず、何かわからないが上司(正しくは申請書を直属の上司)に返却することになっている
- 筆者が作成した業務フローでは分岐が3箇所でてくるが、miroが生成したものは2箇所しか出てこない
- 各アクターごとにレーンが分かれていない。結果、どれが誰のアクションなのかわかりにくい
- 要件定義として使うためにはかなりの時間をかけて修正する必要がある
- startとendの記載がない
- 評価としては★★☆☆☆
Lucidchart


- タイプは「自動選択」「フローチャート」「シーケンス図」「クラス図」「実体関連図」「マインドマップ」の選択が可能
- 今回はフローチャートで作成。図形ライブラリはUMLを選択
- STARTとENDが明示されている
- 正確性はかなり高い。きちんと時系列が再現されている。
- 誰のアクションなのかが正確に記載されている
- 却下の場合、申請書を誰に返却するのかの記載がない
- 入力されたものがほぼ全てフロー上に記載されている
- 評価は★★★★☆
Notion


- 入力したフローの再現性は高い。
- 誰がシステム登録を行なったか、誰が申請書を社員に返却したか等アクションを行なったアクションの記載が足りない
- 直属の上司が上司と変えられている。
- 記載上の不備はあるもののほぼ正確にフローが作成されている
- 評価は★★★☆☆
本記事では、要件定義における業務フロー作成でのAIツールの活用可能性について検証してきました。検証の結果、以下のような知見が得られました。
- AIツールによる業務フロー作成は、基本的な流れの把握には役立つものの、完璧な業務フローを自動生成することは現時点では難しい
- Lucidchartは高い精度で業務フローを生成でき、要件定義の初期段階での活用が期待できる
- ただし、アクターの明確化や細かい条件分岐、例外処理などについては人間による確認と修正が必須
結論として、AIツールは業務フロー作成の補助ツールとして活用することで、作業効率を向上させることができます。しかし、最終的な品質確保のためには、経験豊富なSEやPMによるレビューと修正が不可欠です。
また、AIにより正確な業務フローを作成させるためには、その元となるプロンプトの精度が重要になります。そこまでプロンプトが完成しているのであればそこから業務フローを作成することは簡単で、アクターごとの業務フローを作ることができないAIにつくらせそれを修正することは本末転倒と言えるでしょう。
AIツールは「下書き」や「たたき台」を作成するツールとして位置づけ、それを基に人間が詳細を詰めていくという使い方が現実的でしょう。このように、AIと人間それぞれの強みを活かした活用方法を見出すことが、今後の要件定義の効率化につながると考えられます。