はじめに
システム開発の現場で、生成AIの活用が大きな注目を集めています。特に要件定義から実装、テストまでの各工程において、AIをどのように取り入れれば効率化が図れるのか、多くのエンジニアが関心を寄せています。
本書「上流から下流まで生成AIが変革するシステム開発」は、システム開発の全工程におけるAI活用の可能性を探る一冊です。著者は要件定義からテストまでの各フェーズで具体的なAI活用方法を提案していますが、その実用性や現場への適用については慎重な評価が必要です。
この記事では、現役ITエンジニアの視点から本書を詳細にレビューし、実務での活用可能性や課題について検討していきます。特に、各開発フェーズでの具体的な活用方法や、実践投入する際の注意点に焦点を当てて解説します。
この本を読んだ目的
これまで1から自分でドキュメントをおこしていたが、それぞれの過程で生成AIの力を借りることができるのか見極めたかった。
よかったところ
- 「典型的な顧客と商品の売上を管理するデータベースのスキーマを生成して」というプロンプトで、テーブルとそれに含まれる項目を提案してくれるのは自分でも使おうと思った。 ChatGPTではER図まで作ってくれるうえにDDLまで生成してくれる。これを活用しない手はない
- 要件定義では必ずクライアントへのヒアリングが発生する。そのヒアリングのときの質問票を生成してくれるのは本当に有難く、ここまでできるのなら生成AIに任せることでどれだけ楽になるか計り知れないほどの恩恵をうける。 そのためのプロンプトも紹介されておりすぐに役立たせることができる。
- アーキテクチャを何パターンか提案してくれるところは是非使ってみたいと思った。それなりに実務に耐えるアウトプットがなされている。出てきたものを深掘りすることによりより使用できるアウトプットができる。
- VS Codeによるプログラム生成のやり方が書かれておりすぐに実務に使うことができる。DDLも生成してくれる。
- 生成AIで作られたものを盲目的に信用するのではなく、判断するのはあくまでも人である。レビューとテストが必要だと生成AIが完璧ではないことを警告しているところは好感が持てる。
気になったところ
- 開発プロセスの説明をDFD(データフロー図)を使って説明しているが、本来の使い方をしておらず、DFDを使ったことのある経験者にとっては正しく理解することの妨げになっている。 最近の開発はDFDをがっつり使うことが少ないため、理解されにくい。 目次の後に何の説明もなくDFDがでてくるためなおさら分かりにくく、このDFDが何のために使われるのかわからず読み進めることになる
- 後工程で無理やり生成AIを使うために、ドキュメントを本来の使い方でない使い方で説明しているため、これまで行ってきた作業に適用できない。
- 無駄な説明と事例が多すぎる
- ビジネスモデルキャンバス(BMC)がでてくるが、システム開発で生成AIを使うことがテーマのこの本でそこまで触れる必要があるか疑問が残った。 これは後工程で機能洗い出し等を生成AIにさせるために無理やり盛り込んだ感があり、これが対象読者を特定できない原因になっている。
- 図を示すときに凡例を最初にもってこないので、何が何を表しているのか分かりにくい
全体的な感想
- タイトル通り要件定義からテストまで一気通貫して記載されているが、要件定義ではあまり行わないコンサル領域まで網羅されており、結局誰に読ませたいのか最後まで掴めなかった。
- 一般的に「要件定義では何をするのか」が紹介されているサイトや書籍にのっとって、このドキュメントは生成AIでこういう作り方ができますよという紹介の仕方の方がよかった。
- これまで自分で行ってきた工程を生成AIに肩代わりしてもらおうと思って読むと無駄な記述が長すぎどこを読むべきかの判断をつけにくい。 また、同じ図形で色違いのものを違う意味として使っているが、本自体が白黒なので違いが分かりづらい。
- やたら高度な内容が書いてあるかと思うと、エンジニア1年生でも知っているようなことが唐突に出てくる。 これも対象読者が絞りにくい原因。
- 他の書籍と違うことをアピールしたいのかやたら独自の解釈とドキュメントを独自の使い方をしているために、書かれていることが日常の業務のどこで使えばいいのか分かりづらい。 著者も「この図はUMLのシーケンス図でみると奇妙ですが、シナリオの言葉による表現を図式化したものとして読み替えることが可能です」と書いている。 このような既存のものを独自に解釈し独自に使っているのが散見される。同じことがユースケース図、ステートマシン図でも行われている。
- 全体的に冗長。同じようなことが何度も出てくる
- プロンプトでかなり詳細に情報を入れた上でAIに成果物を出力させているが、ここまでプロンプトが書けるなら自分で最初から作った方が早いというような箇所がいくつも出てくる。
IT職人が考える対象読者
- 要件定義、上流工程の経験者→△
- いくつか実作業でつかえるものが紹介されているが、作業の一部を生成AIにさせたくて読んだ読者には物足りなく無駄な記述がおおいため使いにくい。
- 要件定義、上流工程未経験の読者→×
- 内容が高度すぎ理解が難しい。
- プログラマ→△
- 「よかったところ」で書いたように、VS Codeと拡張機能を使った実装のやり方など使えるところが多くはないがある
トータルでの評価
★★☆☆☆
本書は生成AIのシステム開発への活用について包括的に解説していますが、実践的な観点からは改善の余地が多く見られます。要件定義での質問票生成やデータベーススキーマの設計など、実用的な活用方法が紹介されている一方で、既存の開発手法との整合性や実務への適用については課題が残ります。
特に気になる点として、ドキュメントの独自解釈や過度に複雑なプロンプト設定など、実務での即戦力としては使いづらい部分が多く見られました。また、対象読者が明確でないため、経験者にとっては物足りず、未経験者にとっては難解な内容となっています。
生成AIのシステム開発への導入は確実に進んでいく流れですが、本書の内容をそのまま実践するのではなく、各現場の状況に応じて必要な部分を取捨選択し、既存の開発プロセスに組み込んでいく姿勢が重要といえるでしょう。