
要件定義って結局、何をする工程なんですか?聞かれるたびに説明に困るんですよね。



ひと言で言うなら、“決めることを決める工程”です。
開発の出発点であり、設計や実装をどう進めるかを左右します。
要件定義の基本概念
要件定義とは、「作るものを決める」工程ではありません。
“決めることを決める”工程です。
現場では、プロジェクト開始時に「とりあえず要件定義から」と言われることが多いですが、実際は“課題の輪郭”すら見えていない段階からスタートします。
そのため、最初にやるべきことは目的・前提・制約の整理です。
- そもそも何を解決したいのか
- 業務上どの範囲を対象にするのか
- どのルールや外部システムが前提になるのか
この3点を明文化して初めて、「要件」という言葉を扱う土台ができます。
目的を曖昧にしたまま詳細に入ってしまうと、
レビューで「何のためにやるんだっけ?」という質問が必ず出ます。
さらに要件定義では、ビジネス側と開発側が同じ言葉で会話できることが重要です。
たとえば「顧客」という言葉を一方が“法人”、もう一方が“担当者”と捉えているだけで、後工程は混乱します。
だからこそ要件定義は、用語定義・業務フロー・データの流れといった共通言語を整える工程でもあるのです。
なぜ要件定義が重要なのか
要件定義は、プロジェクト全体の成否を左右します。
なぜなら、この段階で決まった内容が後工程のすべての判断基準になるからです。
要件定義が曖昧なまま進むと、次のようなトラブルが発生します。
- 設計工程で仕様の追加・変更が頻発する
- テスト段階で「想定していなかった不具合」が大量に出る
- リリース直前に顧客の期待と成果物が一致しない
こうした問題のほとんどは、最初に目的・スコープ・判断基準を明確にしていなかったことが原因です。
特に現場では、開発スピードを優先して「まず動くものを作ってから考える」という進め方が多く見られます。
しかしこれでは、短期的な成果は出ても、長期的には品質もコストも崩壊します。
要件定義がうまくいくチームは例外なく、“作る前に考える時間を確保している”チームです。
たとえば、以下の3点を丁寧に詰めています。
- 目的の明確化
何を改善・効率化したいのか。システム導入のゴールは何か。 - 業務の可視化(As-Is / To-Be)
現状業務をフロー化し、どこをシステム化すべきか判断する。 - 判断ルールの共有
優先順位・コスト・リスクの基準を関係者間で合わせる。
このプロセスを経て要件定義書を作れば、「何をすれば成功か」が誰にでも説明できる状態になります。


要件定義で明確にすべきこと
要件定義の目的は「設計を楽にすること」ではありません。
誰が読んでも同じ判断ができる“合意済みの基準”を作ることです。
そのために、以下の5領域を明確に定義します。
1.機能要件 ― システムが何をするか
最も時間がかかるのがここです。
単に機能名を並べるのではなく、「業務の流れの中でどんな判断・処理を行うのか」を明記します。
例えば「申請承認機能」と書くだけでは意味がありません。
誰が、どんな条件で、何を承認し、承認後に何が起こるのか──までを一続きで定義します。
機能要件を書くときのポイントは以下の通りです。
- 入力/処理/出力の対応関係を整理する
- 業務ルール(条件分岐、優先順位)を具体的に書く
- 正常系・例外系の流れを区別して書く
- 他システムとの連携点(入力元・出力先)を明示する
この段階で“誰が何をトリガーに操作するか”が明確になっていれば、設計者は迷いません。
機能単位の粒度は、レビューで1画面または1帳票を単位に説明できる程度が理想です。これより大きいと検証が曖昧になり、小さいとドキュメントが破綻します。
2.非機能要件 ― システムがどのように動くか
非機能要件は、後回しにされがちですが、プロジェクト後半で最も揉める項目です。
性能や運用条件を曖昧にしたまま開発すると、「処理が遅い」「夜間バッチが終わらない」「監査要件を満たさない」といった問題が後から噴出します。
代表的な非機能カテゴリと、現場で必ず決めておくべき観点は以下の通りです。
| カテゴリ | 例 | 決めておくべき観点 |
|---|---|---|
| 性能 | 画面応答0.5秒以内、バッチ完了30分以内 | 測定方法、測定タイミング |
| 可用性 | 稼働率99.9%、障害復旧30分以内 | 監視方式、切替手順 |
| セキュリティ | パスワード桁数・有効期限 | 認証/権限の設計方針 |
| 運用・保守 | バックアップ周期、ログ保管期間 | 管理責任者、想定容量 |
| 法令準拠 | 個人情報保護法、ガイドライン対応 | 準拠先ドキュメントの明示 |
非機能要件は「数値で合意できるか」がすべてです。
“高い・早い・強い”といった定性的な表現は避けましょう。
3.対象外・制約条件 ― スコープを固定する
要件定義のレビューで最も見落とされるのが「対象外の明記」です。
これを怠ると、プロジェクト中盤で「この業務も入ると思っていた」という認識ズレが必ず起きます。
- 今回扱わない業務/機能
- 他システムで対応済みの処理
- 手作業として残す業務範囲
- 環境やライセンス上の制約
これらを「非スコープ一覧」として書面化しておくと、後で追加要求が出ても判断が容易です。
特に複数システムが絡む案件では、「どちらの責任範囲か」を明示することが重要です。
4.受入れ条件 ― 完成をどう判断するか
要件定義の段階で受入条件を決めるのは意外かもしれません。
しかし、最初に“合格基準”を決めておくことで、後の検収がスムーズになります。
受入条件は以下の3要素で構成します。
- 機能的合格基準
→ 要件通りの処理が行えることを確認する。 - 非機能的合格基準
→ 性能・可用性など数値基準を満たしていること。 - 運用・保守基準
→ バックアップ、障害時復旧、マニュアル整備などが完了していること。
ここを明確にしておけば、リリース直前の「これって完了扱いでいいんでしたっけ?」が消えます。
5.成果物間の整合性 ― 矛盾をなくす
要件定義は1枚の資料で完結しません。
複数ドキュメント(機能一覧、非機能要件一覧、IF一覧、帳票一覧など)が連動します。
整合性を確認するレビュー観点として、以下を必ずチェックします。
- 各資料で用語・件数・命名が一致しているか
- 画面や帳票の一覧と機能一覧の対応が取れているか
- IF一覧に書かれた入出力項目が機能要件と矛盾していないか
- テストケースで非機能要件が検証可能な形になっているか
ここまで整理できて初めて、要件定義は“設計できるレベル”になります。
要件定義は文書の量ではなく、判断の再現性で評価されます。
誰が読んでも同じ結論にたどり着けること。それが「現場で通る要件定義」です。
要件定義は、設計のための準備作業ではなく、プロジェクト全体の共通認識を形成するフェーズです。
ここで目的・範囲・判断基準が明確になれば、後工程は静かに進みます。
もしチームで認識が合っていないと感じたら、まずは要件定義のやり方を見直してください。
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