
最近よく聞くLLM開発って、普通のシステム開発とどう違うんですか?



大きな流れは似ていますよ。でもPoC(概念実証)を挟んだり、プロンプト設計が重要だったり、特徴的なプロセスがあるんです。
近年、ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)を活用したシステム開発が急速に広がっています。しかし「LLM開発とは具体的に何をするのか」「従来のシステム開発とどう違うのか」が掴みづらいという声も多いです。この記事では、PoCから実運用までのLLM開発プロセスを解説します。
LLM開発の背景と課題|従来のシステム開発との違い
ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)を使ったシステム開発は、ここ数年で一気に広がりました。
でも、初めて関わる人にとっては「普通の開発とどう違うの?」「なぜPoCが大事なの?」と疑問が多いはずです。
この記事では、LLM開発の基本プロセスと初心者が知っておくべき課題やポイントを分かりやすく解説します。
1.出力が毎回少しずつ変わる
LLMは「確率で次の言葉を予測する」仕組みで動いています。
同じ質問をしても、内部で「どの単語を選ぶか」の確率が毎回少しずつ変わるため、結果が揺らぐのです。
- 例:
「今日はいい〇〇です」と入力すると、
→ 一度目は「今日はいい天気です」
→ 二度目は「今日はいい日です」
普通のプログラムは同じ入力なら必ず同じ出力になりますが、LLMは人間らしい自然な応答をするために、わざと“ゆらぎ”を残しているのが大きな違いです。
2.正解を決めにくい
従来の開発では「この数値が正しい」「ボタンを押したら画面が開く」など明確な正解があります。
でもLLMの出力は文章や回答なので、「どこまでが正解か」を決めるのが難しいのです。
- 例:
「旅行の持ち物リストを作って」とお願いした場合、- Aの答えは20項目
- Bの答えは25項目
どちらも“間違い”とは言えません。
そのため、事前に「最低でも必ず含める項目」や「字数」など評価基準を決めておく必要があります。
3.コストが予測しづらい
通常のシステムはサーバー代や人件費など固定的なコストが多いですが、LLMは使った分だけ料金がかかる従量課金です。
入力と出力の文字数で料金が変わるため、ユーザーがどれくらい利用するかによってコストが大きく上下します。
- 例:
1回あたりの利用料が0.1円でも、1日10万回リクエストすれば 1日1万円=月30万円に膨らむこともあります。
4.ユーザー体験(UX)に影響しやすい
LLMは「速さ」や「答え方」がそのまま体験の質に直結します。
回答が1〜2秒遅れるだけで「遅い」と感じられたり、少し不自然な答えが返るだけで「使えない」と判断されてしまうことがあります。
- 例:
検索なら数秒遅くても我慢できますが、会話アプリで応答が3秒遅れるとストレスになります。
そのため、途中で応答を表示する工夫や再生成ボタンの設置が大切です。
LLM開発の基本プロセス
LLM開発は大きく5つのステップに分かれます。
流れ自体は従来のシステム開発と似ていますが、それぞれの段階で考え方に違いがあるのが特徴です。
| フェーズ | 内容 | 成果物の例 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| ① 要件定義 | 目的や期待する成果を整理 | 要件定義書 | 2〜4週間 |
| ② PoC(概念実証) | 小規模に作って精度・速度・コストを検証 | 検証レポート | 1〜2ヶ月 |
| ③ 設計・実装 | API連携やUI設計、本番用の実装 | 設計書・コード | 2〜3ヶ月 |
| ④ テスト | 精度テストやユーザーテスト | テスト報告 | 1〜2ヶ月 |
| ⑤ 運用・改善 | ユーザーの声を反映し改善 | 改善ログ | 継続的 |
①要件定義
ここでは「LLMを何のために使うか」をはっきりさせます。
従来の開発と違って、LLMは万能ではないので、できること/できないことを切り分ける作業が重要です。
- 例:「FAQ回答を自動化したい」なら → 正答率80%以上が目標
- 成果物:要件定義書(目的・利用シナリオ・KPIがまとまったもの)
② PoC(概念実証)
LLM開発の一番大きな特徴がこの段階です。
いきなり本番を作るのではなく、まず小さく試してみて、実際に使えるかどうか確かめる工程です。
- 例:
- サンプルの質問100件を投げて正しく答えられる割合を計算する
- 応答速度が2秒以内か確認する
- 1件あたりの利用料金を計算する
- 成果物:検証レポート(精度・速度・コストのまとめ)
👉 ここを省くと「やってみたら使い物にならなかった」という失敗に直結します。
③ 設計・実装
PoCで「行けそうだ」と分かったら、実際のシステム設計に進みます。
従来の開発と同じくUI設計やAPI連携を行いますが、**プロンプト設計(AIへの指示文設計)**が加わるのが特徴です。
- 例:
- 「必ず敬語で答える」など指示をプロンプトに組み込む
- 回答が長すぎるときは要約処理を追加する
- 成果物:設計書やソースコード
④ テスト
LLMのテストは「正解がひとつではない」ため工夫が必要です。
単なるバグチェックだけでなく、ユーザーが満足するかどうかをシナリオテストで確かめます。
- 例:
- 想定質問に対して「必ず◯◯を含むか」をチェック
- ユーザー5名に実際に使ってもらい、満足度を調査
- 成果物:テスト報告書
⑤ 運用・改善
リリースして終わりではなく、ユーザーの声や利用ログをもとに改善を続けることが必須です。
なぜならLLMの性能はモデル更新や利用状況で常に変化するからです。
- 例:
- よく失敗する質問を集めてプロンプトを修正
- コストが増えすぎたらキャッシュ機能を導入
- 成果物:改善ログや更新履歴
こうして各フェーズを一つずつ進めることで、「まず試す → 改善する → 本格導入する」というLLM開発らしい進め方が実現できます。


LLM開発で失敗しやすいパターン
LLM開発は新しい分野なので、最初の案件では多くの人が似たようなつまずきを経験します。
ここではよくある失敗例を5つ紹介します。
1.成功条件を決めずにPoCを始める
「まず触ってみよう」と動き出すのは大事ですが、成功の基準を決めていないと延々と試行錯誤になってしまうことが多いです。
- 例:FAQ自動化のPoCで「まあまあ答えられた」では判断できない。
- 結果:「これで行けるのか不明なまま時間だけ消費」してしまう。
2.プロンプトを一度作って満足する
プロンプト(AIへの指示文)は、一発で理想の結果を出せることはほとんどありません。
「改善を前提にする」姿勢がないと精度は上がりません。
- 例:
- 初回のプロンプトで正答率50% → 改善を重ねて80%へ
- 失敗パターン:1回試して「ダメだ」と結論づけてしまう。
3.テスト観点が不足している
従来の単体テスト・結合テストだけでは不十分です。
「実際のユーザーがどう感じるか」を試さないと、現場で役に立たないシステムになってしまうことがあります。
- 例:
- 「正しい情報は返しているが、文章が長すぎて読みにくい」
- 「答えは正しいが専門用語が多く、一般ユーザーには理解できない」
4.利用コストを見積もらない
LLMは従量課金制です。利用量を甘く見積もると、運用後に予算を圧迫するケースがよくあります。
- 例:
- 社内FAQボット → 社員が1日数百回使い、月数十万円に
- 失敗パターン:PoC時に「使う人が少ないだろう」と油断する。
5.UXを軽視する
技術的に動いても、使い勝手が悪ければ利用されません。
回答速度が遅い、言い回しが不自然といった小さな不満が、ユーザーの離脱につながります。
- 例:
- チャットボットで毎回3秒待たされる → 「遅い」と不満が出る
- 回答が固すぎて「人間味がない」と感じられる
LLM開発は従来のシステム開発と比べて、
- 出力がぶれる
- 正解を決めにくい
- コストが読みにくい
- UXに直結する
といった特徴があります。
この不確実性を放置すると失敗につながるため、まず PoC(小規模な実証実験) を挟んで検証することが欠かせません。
この記事では「LLM開発の全体像」と「失敗しやすいパターン」を解説しました。
次回はさらに一歩進めて、よくある課題とその具体的な対策 を紹介します。
LLM開発の特徴を理解したら、次は実際に手を動かしてみるのが一番の学びになります。
RaiseTech では、クラウドやAIをテーマにした実践的な講座が用意されており、PoCの経験を積みたい方にも最適です。
✔ 実務演習ベースでレビュー観点を体系化
✔ 要件定義レビューや設計レビューの精度を高めたい方に最適
現場で使うドキュメントや手順を題材に、学習と実務を直結できるカリキュラムです。
まずは無料説明会で、自分に合う学習ルートを確認してみませんか?
RaiseTech 無料説明会に申し込む










