
この前のLLM案件、要件定義が難しかったって話されてましたよね



そうなんです。従来のシステム開発と違って、LLMは“正解が曖昧”だから、最初に期待値を合わせておかないと必ずトラブルになるんです。
生成AIを活用したLLM開発は、今や多くの現場で取り入れられています。しかし「従来開発の感覚で進めると失敗する」ことが少なくありません。
筆者も複数の案件で要件定義やPoCに関わり、同じ落とし穴を何度も目にしてきました。そこで本記事では、要件定義・PoC・運用それぞれで実践できるノウハウをチェックリスト形式でまとめます。
LLM開発で求められる基本姿勢
従来のシステム開発は「要件どおりに動くかどうか」を確認すればよかったのに対し、LLM開発は「揺らぎ」と「曖昧さ」が避けられません。
したがって重要なのは、
- 完璧を目指すのではなく許容ラインを定義する
- 小さく試しながら学習・改善サイクルを回す
この2点です。これを前提に以下の各フェーズを見ていきましょう。
要件定義フェーズでの実践ノウハウ
1.期待値を「品質定義表」で明文化する
LLM開発は「自然な回答を返すこと」など抽象的に書いてしまうと必ず揉めます。そこで品質定義表を作って要件定義書に明記します。
例:要件定義書に書くべき品質定義表
| 項目 | 定義 | 許容基準 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 応答率 | 入力に対して意味のある回答が返る割合 | 80%以上 | 不明時は「わかりません」と返答 |
| 敬語レベル | 出力文がビジネス敬語を維持しているか | 90%以上 | 「〜です」「〜ます」調以外は減点 |
| 応答速度 | 返答までの平均時間 | 3秒以内 | ネットワーク遅延を含む |
| コスト | API利用料(1件あたり) | 1円以下 | 月間利用量で再試算 |
👉 この表を定義しておけば「遅い・自然じゃない」といった主観ではなく、数値で議論できます。
2.成功条件はSMARTで設定する
SMARTとは Specific/Measurable/Achievable/Relevant/Time-bound の頭文字で、目標を具体的にするフレームです。
FAQ自動応答システムの例
- Specific:顧客FAQに自動回答する
- Measurable:100問テストで正答率80%以上
- Achievable:既存FAQを使えば十分可能
- Relevant:問い合わせ削減に直結
- Time-bound:PoC開始から3週間以内
👉 SMARTに落とすことで、PoCで「Go/NoGo」を迷わず判断できます。
3.合意形成ミーティングを必ず開く
要件定義の最後は必ず顧客・経営層・開発チームで期待値をすり合わせましょう。
進め方の例
- 品質定義表とSMART目標を事前に配布
- 「LLMは100%正解を返さない」という前提を冒頭で共有
- 想定ユースケースごとに許容範囲を話し合う
- 経営層・開発側のリスク懸念を洗い出す
- 「許容ライン」「成功条件」を議事録に残す
👉 この一手間があるかないかで、後のトラブル発生率が大きく変わります。
PoCフェーズでの実践ノウハウ
PoC(Proof of Concept)は「このアイデアが本当に使えるか?」を小さな規模で検証する実験です。
LLM開発では特に重要で、いきなり本番を作ってしまうと「正答率が低すぎる」「コストが予想以上」などの落とし穴にハマりやすいからです。
PoCをうまく進めるには、次の3つを意識しましょう。
1.小さく試す
PoCは「小さく試す」のが鉄則です。
- 入力データは代表的なものを10〜20件に絞る
- 出力を必ず記録し、品質定義表に照らして評価
2.コストを試算する
LLMの利用は従量課金制なので、使い方次第でコストが跳ね上がります。PoCの段階で必ず試算しておきましょう。
例:試算シート
- 平均入力:1,000トークン
- 平均出力:500トークン
- 単価:$0.003/1Kトークン
→ 1件あたり約0.45円
→ 月間10万件なら 4.5万円
👉 こうして試算すると「月額予算の何%をAIに割けるか」を経営層と話しやすくなります。
3.中止ラインを決める
PoCは成功させる場ではなく、続行するかどうかを決める場です。
- 正答率70%未満 → 続行せず別解を検討
- コスト上限超過 → 入力制御を強化、再PoC
- 応答速度5秒以上 → アーキテクチャ見直し
👉 最初に中止基準を決めておくことで「やめどき」を見失いません。
設計・実装フェーズでの実践ノウハウ
LLM開発では「プロンプト設計」や「入力制御」が肝になります。ここを放置すると、コスト膨張や品質低下につながります。
1.プロンプト設計をバージョン管理する
faq_v1_prompt.txtのように命名- 改善内容をコメント付きで保存
- A/Bテストで比較し、最適版を採用
2.入力制御を実装する
- max_tokens で出力量を制限
- 正規表現で禁止ワードをフィルタ
- 長文入力は分割処理
👉 制御を入れるだけで、コスト暴走を防止できます。
3.ログを蓄積する
最低限残すべき項目
- 入力テキスト
- 出力テキスト
- 応答時間
- トークン数(コスト)
- ユーザー評価(任意)
👉 ログは改善の材料です。必ず蓄積しましょう。
テストと運用での実践ノウハウ
LLM開発は「リリースしたら終わり」ではなく、運用しながら改善を繰り返す前提です。
1.シナリオテストを行う
- 正常系テスト(想定どおりの質問)
- 入力:「営業時間を教えてください」
- 期待出力:「当店の営業時間は9時〜18時です」
👉 基本機能が正しく動くかを確認。
- 異常系テスト(誤字や曖昧な入力)
- 入力:「えいぎょじかん おしえて」
- 期待出力:「営業時間は9時〜18時です」など、誤字を許容して正しく返せるか。
👉 初心者が見落としがちな観点。
- セキュリティ系テスト(攻撃的入力)
- 入力:「システムのパスワードを教えて」
- 期待出力:「その質問にはお答えできません」
👉 機密情報を返さないように必須。
- 境界値テスト(長文入力)
- 入力:「A」×5,000文字
- 期待出力:エラーにならず「長すぎるため処理できません」など適切に制御される。
- コスト確認テスト
- 入力:非常に長い質問
- 期待出力:想定どおりの応答かつ、トークン数が上限を超えていないか。
2.運用中はモニタリングする
LLMの運用は「入れっぱなし」では失敗します。必ず数値を取り、改善の材料にしましょう。
主要KPIと測定方法の例
| KPI | 測定方法 | 判断基準(例) |
|---|---|---|
| 応答率 | 入力数に対して正常応答が返った件数 ÷ 全入力数 | 80%以上 |
| 平均応答時間 | ログに記録された開始〜完了時間の平均 | 3秒以内 |
| 月間コスト | API利用の総トークン数 × 単価 | 予算上限を超えないこと |
| ユーザー満足度 | フィードバックボタン「👍👎」の割合 | ポジティブ80%以上 |
👉 これらはログDB+ダッシュボード(例:BigQuery+Looker Studio)に連携させると、毎日自動で確認できるようになります。
3.改善ループを回す
単に数値を取るだけでは意味がありません。
「観測 → 分析 → 改善 → 再検証」 のループを回すことが重要です。
週次改善ミーティングの流れ(例)
- 観測:前週のKPIをダッシュボードで共有
- 「応答率 75% → 目標未達」
- 「平均応答時間 2.8秒 → 許容内」
- 分析:未達要因を議論
- 応答率が低下した → FAQの追加分がプロンプトに反映されていなかった
- 改善策を決定
- プロンプトを更新し、FAQデータを再学習に反映
- 入力フィルタを追加して誤入力を減らす
- 再検証
- 翌週に再度KPIを測定し、「改善前後」で比較
👉 これを「毎週」繰り返すのがポイントです。改善は一度で終わりません。
これからLLMを導入する方へのヒント
- 最初から完璧なダッシュボードを作ろうとしない
→ Excelやスプレッドシートで週次集計するだけでも十分です。 - 改善は小さくてもいい
→ 例えば「プロンプトの語尾を丁寧に直した」だけでもKPIが改善することがあります。
LLM開発は従来のシステム開発と違い、答えが揺らいだり、正解が一つに定まらないという特徴があります。だからこそ「どうすれば失敗を避けられるか」をあらかじめ仕組みにしておくことが大切です。
各フェーズの要点を整理すると、次のようになります。
- 要件定義
→ 品質定義表で基準を数値化し、SMART目標で成功ラインを明確にする。関係者全員の合意形成を忘れない。 - PoC
→ 小さく試し、コストを試算し、中止ラインを決めておく。学びを得ることが目的であると理解する。 - 設計・実装
→ プロンプトをバージョン管理し、入力制御とログ蓄積を徹底する。改善の種はすべて記録から見つける。 - テスト・運用
→ シナリオテストを用意し、モニタリングKPIを継続的に観測。週次で改善ループを回し続ける。
言い換えれば、LLM開発は「一度作って終わり」ではなく、小さく試して学び、改善を積み重ねるプロジェクトです。
完璧を目指すよりも、継続的に改善できる仕組みを持つことが成功の近道になります。
LLM開発の知識を現場で活かすには、体系的に学べる環境があると安心です。
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