
最近“オフショア開発”ってよく聞くんですけど、本当に救世主みたいなものなんでしょうか?



そうですね、うまく使えばコストとリソースの救世主になりますが、品質管理や文化の違いなど注意点も多いんですよ。



その辺り、具体的に教えていただけますか?



もちろんです。この記事では、何が“救世主”的で、何に要注意かを整理していますので、ぜひ読んでみてくださいね。
1. オフショア開発が注目される背景
日本国内では少子高齢化やIT人材不足が深刻化しており、多くの企業が開発リソースの確保に苦慮しています。さらに、コスト圧縮の要求が強まる中で、限られた予算内で高品質な成果を求める動きも加速。こうした背景のもと、海外のエンジニアチームと連携してシステムやアプリケーションの開発を行う”オフショア開発”が再び注目されています。特にベトナム、インド、フィリピンといった東南アジア・南アジア諸国では、質の高い教育を受けたIT人材が豊富に存在し、日本国内の3分の1〜5分の1程度の単価で優秀な人材を確保できるという魅力があります。
2. オフショア開発のメリット
- コスト削減
- 日本国内のエンジニア単価と比較すると、オフショア先では約30%〜70%のコスト削減が可能とされています。例えば、同じレベルのシステム開発を国内で行う場合と比べて、インドやベトナムでは人件費だけでなく、間接コスト(インフラ、福利厚生など)も抑えられる傾向があります。
- リソース確保
- 近年、IT人材不足が加速する中、特定の技術スタック(Java, PHP, React, AWSなど)を持つエンジニアの採用が難航しています。オフショア開発を活用することで、特定分野に強みを持つ海外エンジニアをプロジェクト単位で確保しやすくなります。
- 24時間開発体制
- 日本とオフショア先の時差(インド:3.5時間、ベトナム:2時間など)を活かして、国内の業務終了後も開発作業を継続できる体制を構築可能です。これにより、開発スピードの向上や納期短縮が現実的となります。
一方で、日本側が就業時間後に進捗が進むため、翌営業日まで状況を把握できず、問題の早期発見や即時対応が遅れるケースもあります。結果として、細かな修正指示やレビューが1日遅れるなど、タイムラグがプロジェクト全体に影響する可能性も否定できません。
- 日本とオフショア先の時差(インド:3.5時間、ベトナム:2時間など)を活かして、国内の業務終了後も開発作業を継続できる体制を構築可能です。これにより、開発スピードの向上や納期短縮が現実的となります。
3. オフショア開発のリスクと課題
- コミュニケーションの壁
- 言語や表現の違いだけでなく、価値観や働き方に対する文化的背景の違いが、誤解や意思疎通の障壁となることがあります。たとえば、日本では曖昧な表現でも意図が伝わることが多い一方で、海外では明確な指示が求められるため、”言わなくても分かる”という前提が通用しないことが多いです。
- 品質管理の難しさ
- 開発の品質は詳細な設計書や明確な仕様に依存しますが、情報共有の齟齬や進捗報告の頻度不足により、意図した成果物と異なるものが納品されるリスクがあります。
コードレビューやテスト体制が整っていない場合、バグの発見が遅れたり、再修正に工数がかかる事態も想定されます。
また、日本側での受け入れテスト前に、現地エンジニアが自ら単体テストや動作確認を実施しないケースもあり、手戻りが頻発する原因にもなります。
さらに、修正指示を出しても一部のメンバーが対応せず、同じ箇所を何度も修正依頼する事態が繰り返されることもあり、対応姿勢や品質意識の違いが顕在化する場面も見られます。
加えて、納期が差し迫った状況であっても、自身のスキル不足が原因であっても、業務時間外の対応を拒むケースが少なくありません。実際に、納期遅延が原因で契約を打ち切られた事例も複数存在し、オフショア先との働き方や責任感のギャップを如実に示しています。
また、日本側とオフショア側で「この程度でいいだろう」と判断する完成度の基準が大きく異なり、オフショア側が十分と判断した成果物でも、日本の品質要求には到底及ばないケースも頻発しています。
- 開発の品質は詳細な設計書や明確な仕様に依存しますが、情報共有の齟齬や進捗報告の頻度不足により、意図した成果物と異なるものが納品されるリスクがあります。


4. 成功・失敗事例に学ぶ


成功事例
大手EC企業がベトナムの開発会社と提携した際、以下のような運用を徹底することで、コスト30%以上削減、納期は20%短縮を実現しました。
- 要件定義の二段階方式
- まず日本側で「仮仕様書(要件ドラフト)」を作成し、FigmaやNotionを活用して画面遷移・操作フローを可視化。次に、オフショア側とZoomで1機能ずつ逐語解説し、各項目に対してQAシート(Googleスプレッドシート)で質問を記録。回答をレビュー後、正式仕様書として承認するフローを確立。開発中の要件変更もすべてこのシートに追記し、履歴を残すことで仕様のぶれを防止。
- 設計書・仕様書は二言語化
- 基本設計書(HLD)、詳細設計書(LLD)、画面仕様書、API仕様書をGoogle DocsとDraw.ioで作成し、日本語と英語で段落ごとに併記。併せて用語集(Glossary)を作成し、”予約”や”承認”など日本独自の意味合いを解説。
- 進捗と品質のレビューを週次で実施
- Zoomで毎週定例会を開催。AsanaやClickUpを使い、タスクの進捗・ブロッカーを確認。レビューはGitHubのPull Request単位で行い、テストコードの有無・命名規則・UI整合性を重点チェック。
- 事前に自動テスト環境を構築
- Jestによるユニットテスト、CypressによるE2Eテスト、PostmanによるAPIテストをDocker上に統合。GitHub ActionsによるCI/CDを構築し、pushのたびに自動で各種テストを実行。カバレッジ80%以上を基準とし、定期的にテストレポートを提出。
- トライアル開発を3週間実施
- 本契約前に、業務に近い小規模なユースケース(例:ログイン+一覧表示+編集機能)を題材にPoC開発を依頼。ドキュメント作成力・コードの保守性・バグ対応の速さを評価。PoC後にはレビュー会を実施し、評価表(スコアカード)をもとに継続可否を判断。
失敗事例
スタートアップ企業が初めてインドのオフショア企業と契約した際、以下のような問題が発生し、開発プロジェクトが大きく遅延・頓挫しました。
- 要件定義が口頭ベースで曖昧
- Slack中心でやり取りされ、画面設計は手書きの画像のみ、API仕様も文書化されず、エンジニアが独自解釈で実装。仕様齟齬に気づいたのは実装完了後で、全面的な作り直しが発生。
- 進捗報告が週1回以下
- 日報や中間レビューは一切なく、「今週中に上がる予定」と言われた成果物が週を跨いでも未完成。可視化ツールも使われず、タスク管理が属人的だった。
- 再修正に対応しない文化
- 明確に修正指示をしても、「自分のローカルでは動いている」と言って対応を拒否。UIの崩れや動作不備について「それは仕様ではない」と認識されないケースが頻発。
- リーダー不在でエスカレーション不能
- 連絡窓口が営業担当で、技術的な質問やトラブルは「現地チームに聞いてみる」と回答保留が続く。結果的に誰も意思決定できず、仕様変更の判断が1週間以上かかることも。
- 品質の基準に対する意識差
- 一覧画面での項目ズレ、ポップアップが途中で閉じられない、入力チェックが機能しない等、日本の標準品質ではリリースできないバグが多数。オフショア側は「目立たない不具合は後から直せばよい」という姿勢で、修正優先度にもギャップが。
最終的に、リリース直前で日本側が全面的な作り直しを決断。コードレビューの結果、構造が複雑化しすぎており、拡張性・保守性に乏しかったため、国内チームが一から再構築することに。プロジェクト完了は当初予定より3ヶ月遅れ、コストは予算の2倍以上に膨らみました。以降この企業では、オフショア導入前に必ずPoCと詳細なプロセスレビューを実施する方針に切り替えています。
5. 成功に導くためのポイント


オフショア開発で失敗を防ぎ、成果を最大化するためには、以下のような実践的な取り組みが有効です。
- 要件定義と設計の精緻化
- 日本側で基本設計(HLD)を固めたうえで、詳細設計(LLD)はオフショアと協働で進める。双方の合意形成をドキュメントで残す。
- 開発ガイドラインの整備
- コーディング規約、命名規則、コメント方針などを事前に共有し、成果物のばらつきを防止。
- レビューフローの明確化
- Pull Requestごとにレビュー担当を固定し、チェックリスト(テスト有無、UI/UX準拠、命名規則等)を設けて品質を担保。
- テスト戦略の導入
- 単体・結合・E2Eテストの分担と実施タイミングを明確化。可能であれば、オフショア側にも自動テストの実装を依頼。
- トライアル開発とフィードバック
- 本格開発の前にPoC(概念実証)を行い、開発力・理解力・対応力を客観評価。フィードバック結果をもとに本契約の範囲・スケジュールを最適化。
- 多言語サポート体制の確保
- バイリンガルPMや翻訳者を間に挟むことで、要件のブレや齟齬を最小限に。
- 信頼関係の構築
- 定例MTGのほか、雑談や技術ディスカッションなども交えてチームビルディングを行う。
このような手順を経て、共通理解と合意形成を丁寧に積み重ねることが、トラブルの回避と成功への近道です。特に日本のクライアントは、求める品質水準、ドキュメントの正確さ、画面操作の細部に至るまで非常に高い期待を持っており、オフショア側との感覚の違いが初期には必ず存在します。このギャップを埋めるには、単にルールを共有するだけでなく、ひとつひとつ実績を積み重ねながら信頼を獲得していく以外にありません。まるで赤ちゃんを育てるように、忍耐強く、日本の開発文化や品質へのこだわりを少しずつ体得させていくプロセスが不可欠です。オフショア開発の真のメリットは、こうした期間を経てから初めて感じられるものであり、短期的な成果を求めすぎるとその可能性を閉ざすことになりかねません。
6. オフショア開発パートナー選定の実践ポイント
オフショア開発の成否は、パートナー企業の選定に大きく左右されます。ここでは、信頼できるパートナーを見極めるための実践的なポイントを解説します。
- 実績の確認
- 提案時に提示された過去の開発実績が、自社と同業種・同規模かどうかをチェック。できれば、GitHubのリポジトリやUIサンプル、アプリのスクリーンショットなど、実物に近い成果物を見せてもらう。
- 技術スキルの見極め
- 面談時には「技術者本人」と会話する機会を設け、コードへの理解度、アーキテクチャに関する考え方、設計方針について具体的に質問する。テンプレート回答を避けるため、事例ベースで聞くと効果的。
- リーダー層の質と対応力
- 開発全体の品質は、技術リーダーの判断と統率力に左右される。提案段階でプロジェクトマネージャーや技術リーダーの経歴、開発哲学、問題発生時の対応スタンスをヒアリングする。
- セキュリティと契約面の透明性
- NDAの有無、ソースコードの帰属、ソースの管理体制(Gitの運用方針など)、業務外注の有無を契約書で明確化する。
- コミュニケーション頻度と柔軟性
- 週次定例だけでなく、日次のチャット報告、障害時の即応性、言語サポート体制(翻訳者やバイリンガルPMの有無)なども確認しておく。
それでもオフショアをやるのか
オフショア開発は、導入に成功すればリソース確保・コスト削減の強力な武器になりますが、導入に失敗すれば二重の手間とコストを招くことにもなりかねません。特に品質と納期への責任感、報告体制、再修正対応、そして完成度に対する価値観は、日本側と大きく異なることが多いため、実行前の見極めが極めて重要です。
そのためにも、「PoC(試験開発)→評価→本契約」という段階を設けること、週次・日次でのレビュー体制の整備、技術者本人の面談など、事前準備と関係構築を丁寧に進めることが成功の鍵になります。
オフショア開発には、面倒も多く、裏切られるような経験もあるかもしれません。それでも私は「やる価値がある」と思っています。
なぜなら、すべてが思い通りに進む国内のリソースだけでは、コストも、スピードも、スケーラビリティも限界があるからです。
確かに、文化の違い、価値観の違い、品質基準の違い——そのすべてが壁になります。しかし、それは一度乗り越えてしまえば、再現性のあるチームの資産として蓄積されていくものです。
失敗はある。けれど、失敗から学び、改善できるチームなら、オフショアを武器にできます。即効性のある特効薬ではありません。しかし、数年後、「あのとき地道に関係を築いておいてよかった」と思える日が来ます。
目の前の課題ばかりを見ず、5年先、10年先を見据えて、いま種を蒔けるかどうか。オフショア開発とは、まさにそういう投資だと思うのです。
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