
先輩、この前のA社さんの案件、経営陣が見積もりを見て混乱してましたよね



はい。3社から出てきた見積りが全部フォーマットも金額も違って、経営層には判断できなかったんです。あの時、顧問として整理できたのが大きかったと思っています。
システム開発プロジェクトは、大小にかかわらず必ず揺れる瞬間があります。
ここでは、私がシステム開発顧問として関わった実際の案件の中から、特に印象的だった4つのシーンを紹介します。
ケース1:ベンダー選定で経営層が混乱
A社の経営層は新しいシステムを導入しようと3社から見積りを取りました。
しかし「金額は高い安いがあるけれど、書き方も前提条件もバラバラで比較できない」と混乱していました。
筆者は顧問として
- 見積りを同じフォーマットに整理
- 3年間にかかる総額(開発費・維持費・ライセンス料など)で比較
- 契約条件のリスク(追加費用が発生しやすい項目など)を明示
という形にまとめました。
- ベンダーA
- 初期費用は1,200万円と安く見えるが、毎月の保守費用が30万円。3年間では合計2,700万円となり、最もコストが高い。
- ベンダーB
- 単価ベースで見積もっており、一見1,000万円前後で安い。しかし開発にかかる日数次第で費用が30%以上膨らむ可能性があり、予算超過のリスクが高い。
- ベンダーC
- 初期費用は1,400万円と中間。毎月の維持費も15万円と抑えめで、ライセンス費用も不要。3年間で2,300万円程度に収まり、納期や契約条件の明確さも一番安定していた。
経営層は「単純な初期費用の安さではなく、総額とリスクを見て選ぶべき」と納得し、最終的にベンダーCを採用しました。
ベンダー | 初期費用 | 毎月の維持費 | ライセンス費用 | 3年間合計 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
A社 | 1,200万円 | 30万円 | なし | 約2,700万円 | 初期費用は安いが維持費が高い |
B社 | 約1,000万円(±30%) | 20万円 | なし | 約2,100〜2,600万円 | 安く見えるが費用変動リスク大 |
C社 | 1,400万円 | 15万円 | なし | 約2,300万円 | 総額バランスが良く契約も安定 |
ケース2:要件定義で経営と現場が衝突
A社のプロジェクトでは、システムに求める機能を決める段階で、経営層と現場スタッフの意見が真っ向から対立しました。
- 経営層:「顧客管理さえできればまずは十分。半年でリリースしたい」
- 現場スタッフ:「請求処理や在庫連携がないと日々の業務が止まる。最低限ここまでは必須」
両者の主張はどちらも正しいのですが、そのままでは「機能を増やして納期が延びる」か「機能不足で現場が混乱する」かの二択になり、どちらを選んでもリスクが大きい状況でした。
筆者はシステム開発顧問として、次の進め方を提案しました。
- 機能を「必須」「優先度中」「後回し」に仕分けるワークショップを実施
- 経営層には「早く出すことのメリット(競合より先にサービスを展開できる)」を説明
- 現場には「次フェーズで拡張することのメリット(仕様を磨き込んでから追加できる)」を説明
- 双方に「初期リリース後も段階的に改善を続ける」姿をイメージしてもらう
こうして合意したのが、MVP(Minimum Viable Product)型のリリースでした。
つまり「最初は顧客管理と最低限の請求処理に絞る → 在庫管理や複雑なレポート機能は次フェーズで開発」という流れです。
結果、半年で無事リリースし、現場の業務は止まらずに済みました。さらにリリース後に実際の利用状況を見ながら在庫管理機能を追加したことで、開発コストの無駄も減らすことができました。
機能項目 | 経営層の要望 | 現場スタッフの要望 | 優先度判定 | 対応タイミング |
---|---|---|---|---|
顧客管理 | 高 | 高 | 必須 | 初期リリース |
請求処理 | 中 | 高 | 必須 | 初期リリース |
在庫管理 | 低 | 高 | 中 | 次フェーズ |
売上レポート | 高 | 中 | 中 | 次フェーズ |
ワークフロー承認 | 中 | 中 | 低 | 将来検討 |
ケース3:仕様変更で開発チームが疲弊
A社のシステム開発もリリース直前に差し掛かった頃、経営層から「やっぱりこの機能も追加して欲しい」という要望が出てきました。
現場スタッフも「確かにあった方が便利」と同意したものの、開発チームはすでにリリースに向けて最後の調整に入っており、「納期に間に合いません」「残業続きで体力的に限界です」と悲鳴を上げていました。
このように直前での仕様追加は、プロジェクトが炎上する典型的なパターンです。放置すれば「納期遅延」か「過労による品質低下」のどちらかを招いてしまいます。
筆者は顧問として次のステップで対応しました。
- 経営層・現場・開発チームを集め、要望を「必須」「次フェーズ」「将来検討」に仕分け
- 経営層には「今入れるとリリースが遅れ、売上機会が失われるリスク」を具体的に提示
- 開発チームには「今回見送る項目は必ず次フェーズに回す」という安心感を与え、無理な残業を防止
- 現場スタッフには「初期リリース後に追加することで、実際の運用に合わせて最適化できる」という利点を説明
こうして合意を形成し、最終的には必須機能のみを残して予定通りリリースできました。
追加要望はリリース後のフェーズ2として計画的に実装し、結果的に初期コストを抑えながら品質も確保することができました。
機能要望 | 経営層の重要度 | 開発負荷 | 優先度判定 | 対応タイミング |
---|---|---|---|---|
顧客一覧画面のCSV出力 | 高 | 中 | 必須 | 初期リリース |
ダッシュボードの可視化 | 高 | 高 | 中 | 次フェーズ |
在庫管理との自動連携 | 中 | 高 | 中 | 次フェーズ |
ワークフロー通知機能 | 低 | 中 | 低 | 将来検討 |
AIによる需要予測 | 中 | 非常に高 | 低 | 将来検討 |
この経験から改めて痛感したのは、要望のすべてを今すぐ叶えることが正解ではないということです。
むしろ段階的に機能を追加することで、利用状況を見ながら改良を加えられ、最終的な完成度は高くなります。
経営層は「売上機会を逃さずに済んだ」と満足し、開発チームは「無理な残業をせずに品質を守れた」と安心でき、現場スタッフも「次のフェーズで改善される」という見通しが得られたため、三者とも納得の結果となりました。
ケース4:リリース後の若手PM育成
システムが無事にリリースされた後、A社の経営層から次のような相談を受けました。
「今後は小さな改修や追加開発は、なるべく社内で主体的に回したい。若手PMに経験を積ませたいが、まだ一人で任せるには不安がある」
実際に若手PMは、
- 見積りをどう読み解けばよいか分からない
- 要件定義のレビューで何をチェックすればよいか不安
- プロジェクト管理ツールをどう活用すればよいか経験不足
という課題を抱えていました。
筆者は顧問として、次のようなサポートを行いました。
- 見積り読み解きトレーニング
- 各社の見積りを例に「何が含まれているか」「どこに追加費用が潜んでいるか」を解説
- 実際に若手PMに比較表を作らせ、差分を説明してもらう演習を実施
- 要件定義レビューの実地指導
- 要件定義書を一緒に読み、「あいまいな表現」「テスト観点が抜けている箇所」をピックアップ
- チェックリストを用意し、レビューの際の確認ポイントを標準化
- プロジェクト管理ツールの運用伴走
- BacklogやJiraを用い、課題の登録・優先度付け・進捗の見える化を実践
- 「どう報告すれば経営層と開発者の両方に伝わるか」をケース別に指導
項目 | 実施内容 | 成果イメージ |
---|---|---|
見積りの読み解き | 各社の見積りを比較し、差分を整理 | 不明瞭な見積りを質問できるようになる |
要件定義レビュー | 曖昧な表現や抜け漏れを指摘する練習 | ドキュメントを鵜呑みにせず疑問を出せる |
プロジェクト管理ツール | 課題登録・優先順位付け・進捗管理 | 開発者と経営層をつなぐ報告ができる |
フェーズ計画 | 機能を段階分けして計画立案 | 「今やる/次にやる」の判断ができる |
振り返りミーティング | リリース後のKPT(Keep/Problem/Try)実施 | 改善点を次のプロジェクトに活かせる |
こうした育成プランを3か月ほど伴走した結果、若手PMは「自分で見積りを読み、要件を整理し、開発会社と対等に会話できる」レベルに成長しました。
経営層からは「これなら次回の小規模開発は社内主導で進められる」と評価され、結果的に外部依存度を減らすことに成功しました。
顧問は単なる「外部アドバイザー」ではなく、社内に人材を育て、知識を残す存在としても機能します。
今回の案件を通じて感じたのは、システム開発の現場では必ず立場の違いから摩擦が生まれるということです。
経営層はスピードやコストを重視し、現場は日々の業務の確実性を求め、開発チームは納期や品質を守ろうとする。
その間に立って整理役を果たすことで、プロジェクトがスムーズに進みました。
この経験は「システム開発顧問」という立場だからこそ気づけたものであり、技術力だけでなく人と人との調整力がいかに重要かを改めて実感しました。
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